研究概要 |
哺乳動物の中枢神経伝導路の著名な,機能的意義のある再生がどのような条件下で起こるかを明らかにするため,幼弱ラットの皮質脊髄路を延髄・橋の移行部で腹側より切断を加え,胸髄下部,腰膨大では椎弓切除ののち背側より完全切断あるいは脊髄の外側1/3程度を切り残す不完全切断を行った.皮質脊髄路は延髄・橋の移行部では腹側を,脊髄では後索を通るので不完全切断によっても皮質脊髄路は完全に切断される.これらの動物における切断部の状態や脊髄の反射機能と対比して,切断された皮質脊髄路が再生するか否かを神経路の順行性・逆行性標識法により検索した.切断後,切断部には浮腫を生ずる例と生じない例があった.腰膨大の完全切断例とその他の切断例とは術語の脊髄の反射機能に関して大きく異なっていた.すなわち,前者においては後肢は伸展位のまま脊髄反射の消失状態が続き,膀胱直腸障害が出現したが,後者では後肢は術直後から反射運動がみられ,膀胱直腸障害もなかった.これらの動物のうち,腰膨大切断例ではたとえ鋭利な切断であっても再生は失敗に終わったが,腰膨大の完全切断例以外のものでは切断が浮腫を生じないように鋭利に行われていれば著名な再生が起こっていた.軸索の周囲環境には軸索に経路と標的の情報を与えて誘導するような手掛かりが存在すると考えられている.私達は,胸髄下部でそのような手掛かりが失われないような鋭利な切断を行えば著名な再生が起こることを見出してきたが,本研究結果はそれが延髄・橋移行部や腰膨大においても起こること,しかし,その部位が何処であれ,標的組織の神経活動の存在が重要であることを示している.腰膨大には後肢の運動のパターンジュネレーターが存在することが知られているが,新生ラットや幼弱ラットでは上位脳からの神経結合が絶たれても,腰膨大が独立して活動することができ,その活動が再生に対して促進的に働くものと推測される.
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