研究概要 |
新生ラットの下部胸髄の髄節を取り除き、その空所に、実験群では切除髄節と相同な部位を含む胎児ラットの脊髄髄節を正常な吻尾背腹方向にして移植し、対照群ではラットの坐骨神経を移植した。また,生後2週齢のラットを脊髄を胸髄下部で切断した。これらの動物において切断部あるいは移植組織を超えて再構築された神経結合を神経組織学的,電気生理学的,行動学的に検索した.移植髄節の生着した例では移植髄節を超えて正常と同様な上行性・下行性の神経結合ができていること,その神経結合が電気生理学的に正常と同様な活動性を示すことが確認され、行動学的にも正常な動物におけると同様な前肢-後肢の協調運動が認められた。一方、坐骨神経を移植した対照群では多くの中枢神経軸索が坐骨神経に入り、その中を仲長したが、その大部分は坐骨神経と脊髄断端との境界面で止まり、境界面を超えて再び脊髄に入るものは極く一部の線維に限られており、それも脊髄の中を伸びる距離は短いものであった。脊髄の切断実験においては、切断が鋭利に行われ、切断部に浮腫を生じない場合には切断歩を越えて著明な皮質脊髄路や赤核脊髄路の再生が起こることを確認した。それらの再生線維は正常な経路を通り、正常な投射と同様に尾髄にまで達し、正常な終止部位に終末を分布した。一方、切断により切断部に浮腫を生ずるような条件下ではそれぞれの投射路の線維は切断面で止まるかあるいは切断面を越えて伸びても異所性の走行を示し、伸びる距離も比較的短かった。以上の結果は中枢神経系にはそれぞれの投射路に固有の経路と終始部位の情報を与えて軸索の伸長を促すような手掛かりが存在すること、そのような手掛かりを損なわないような切断であれば、あるいは移植によりそのような手掛かりを導入してやれば、哺乳動物の中枢神経伝導路の再生と神経回路網の再構築が可能であることを示している。
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