研究概要 |
木村は平成4年1月に自治医科大学第一生理学講座から現在の大阪大学健康体育部に赴任して,全く新しく実験室づくりを始め,その研究室で現在までに以下のような新しい知見を得ている.単純な感覚刺激と運動との連合学習に大脳基底核が関与すると考えられる.古典的条件づけのようなクリック音と報酬のジュースを組み合わせてサルに呈示すると,最初はクリック音とは無関係にジュースを舐める口の運動を行っているが,数日の条件づけを経て次第に音によって運動が誘導されるようになり,約3週間で条件行動が完成した.一方線条体のニューロンのうちI型と木村らが名付けたニューロンの活動を学習段階で記録すると条件行動の完成に伴って60-70%のニューロンがクリック音に対して反応を示すようになった.被殻よりも尾状核ニューロンの方が反応性が高い傾向を示した.この結果をまとめてJ.Neuroscienceに投稿し,受理されて現在印刷中である. 当初に計画した研究目的は,大脳基底核線条体,淡蒼球,視床下核,黒質を含む特異的な神経回路によって構成されるモジュール機構の機能を知ることであり,淡蒼球の外節および内節のニューロン活動を調べることを計画した.しかし,継続的に木村が行ってきている研究から極めて新しい知見が得られ,研究が大きく展開する可能性が強くなったため,本研究計画も一部変更して運動・行動の学習(習得,保持と記憶した内容の読み出し)への大脳基底核の関与を調べる目的で,線条体のニューロン活動の学習に伴う変容を調べることとした.しかし,この研究は大脳基底核のモジュール機構の機能を知るために必要とされる非常に重要な知見を,異なった観点から提供するものであることもまた明かである.更に,線条体のニューロンの学習への関与についての知見を蓄積すると共に,淡蒼球外節,内節いずれへ投射するニューロンであるのかを調べる研究をスタートさせることを計画中である。
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