本研究では、行動の条件付けを通して線条体ニューロンが新しい活動を獲得する上で、黒質線条件ドーパミン系がどのような役割を果しているのかを明らかにすることを目的として行った。約3週間かけてクリック音と報酬との古典的条件付けが完成すると、3頭の動物総てにおいて、記録した線条体の持続的な自発放電を持つ介在ニューロン(TANs)の6割以上が条件刺激であるクリック音に反応を示すようになった。一側の線条体にMPTPを2週間かけて注入すると、動物は注入と同側へ回転する傾向を示し、眼球運動も同側視野へ向かうものが多くなった。これらの症状はアポモルフィンなどのドーパミン受容体アゴニストを投与すると方向が逆転することから、薬理学的に線条体のドーパミン枯渇が確認された。一側の黒質線条体ドーパミン系の枯渇によって、クリック音に引き続いてジュースを舐める動物の運動は定期的なものでなくぎこちない運動になった。そして驚くべきことに枯渇側のTANsの条件刺激に対する反応はほとんど完全に消失して、条件付け前のレベルに戻ってしまった。この著しいドーパミン枯渇の効果は、ドーパミンアゴニスト(apomorphine)の皮下投与によってTANsの反応が回復することからドーパミン受容体を介して現れたことが確認された。本研究の結果は、以下のような仮説を支持する。すなわち、行動の習得の初期の段階では行動の"動機付け"や"鼓舞"に関する情報と共に多量のドーパミンが線条体に送り込まれることによって線条体ニューロンが条件反応を獲得し、学習が進んで行動が極めて定型的に行われるようになるともはや黒質線条体系は少量のドーパミンを持続的に送り出すのみである。しかし少量で持続的なドーパミンが線条体に送られないと、線条体ニューロンは学習を通して獲得した活動を"表現"することができず、その結果習得された行動も発現することができず、ぎこちない行動になってしまうのである。
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