(1)嗅球ニューロンの「匂い分子受容範囲」の調査:ウレタン麻酔下のウサギ嗅球各部の僧帽細胞より単1細胞記録をおこない、匂い分子パネルに対するチューニング特性を調べた。個々の僧帽細胞は同様なコンフォメーションをもつ一群の匂い分子に対して選択的に興奮性のスパイク応答を示した。このチューニング特性を個々の嗅球ニューロンは異なった「分子受容範囲」を示した。上記の結果より「個々の僧帽細胞には、同種の匂い分子受容体を発現している多数の嗅細胞からの入力が収束すること」が示された。 (2)嗅球ニューロンの匂い分子コーディングに対する嗅球内局所回路ニューロンの役割:直鎖アルデヒド分子群を匂い刺激とし、僧帽細胞の匂い応答選択性を調べたところ、個々の細胞は、炭化水素鎖の長さが類似した2〜3種のアルデヒド分子に対して興奮性の応答を示すとともに、これらの分子よりもほんの少し長いか、もしくは、短い炭化水素鎖をもったアルデヒド分子に対して選択的に抑制性の応答を示した。この匂い分子構造特異的抑制性応答は、僧帽細胞と顆粒細胞との樹状突起間シナプスの伝達を遮断するCNQXおよびビククリンの局所投与により顕著に減少した。この結果は、嗅球内の顆粒細胞を介した局所回路により、僧帽細胞の匂い分子の構造に対する選択的応答性が増強されていることを示している。 (3)嗅上皮から嗅球への嗅神経投射のゾーン構造に関与する膜蛋白の生化学的解析:嗅上皮の中央部ゾーンおよび腹外側部ゾーンに属する嗅細胞の軸索に選択的に発現している膜蛋白(R4B12)を精製した。R4B12は分子量90kDと115kDの少なくとも2つのアイソフォームを持つ糖蛋白質であった。
|