これまでの成績を通じ、次のような結論が導けた。 1) Ehrlich腹水癌(EAT)細胞の膜表面には、少なくともH-2遺伝子産物は欠損している。 2) しかし、おそらくnon-MHC遺伝子産物は残存し、微弱ながら宿主の拒絶を受けている。 3) 複数の近交系マウスはEATに対する抵抗性遺伝子を保有していると思われ、それはおそらくH-2に連関して位置していると思われる。その遺伝子数は多くとも2個程度と見積られる。 4) ddY-drmマウスの癌休眠体質はリンパ球の移入によりddY-prgマウスに伝達できる。細胞性免疫の関与が考えられる。 5) H-2ハプロタイプが異なるマウス間でも、なんらかの遺伝的背景を同じくする時、癌に対する養子免疫が可能である。この新規な事実は考慮に値する。 6) N_2を対象にした遺伝子解析から、新たな結果が期待されよう。 以上の結論を土台に、今後、癌抵抗性(癌休眠)遺伝子を同定し、これをddY-prgマウスに移入したトランスジェニック(Tg)マウスを作成する予定である。このTgマウスがEAT抵抗性を示すなら、次のステップでは癌休眠遺伝子を骨髄細胞に移入し癌宿主に戻すという、いわゆる癌休眠遺伝子療法に挑戦してみたいと考えている。
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