乳房温存手術における切除断端癌遺残の主因である乳癌の広範な乳管内進展について病理学的な基礎資料を得るため、乳癌手術材料の厚切り全割標本から乳管内癌進展の特徴について2次元および3次元的に検索した。材料と方法:当科で乳房四分円切除術を施行した単腫瘤性の原発性乳癌20例(乳頭腺管癌8例、充実腺管癌5例、硬癌6例、粘液癌1例)を用いた。切除標本は2mm厚に全割してWellingsらの厚切り標本法に準じ実体顕微鏡下に観察した。2次元的検討では癌分布図から乳管内癌の進展距離および角度を計測した。3次元的検討では画像処理装置により乳管腺葉系の3次元再構築を行った。結果:1.対象20例中16例に主腫瘍から連続する乳管内進展を認めた。2.18例は進展距離が20mm以内で、19例は進展角度が35度以内だった。3.49歳以下の若年齢層が、高年齢層に比して進展範囲の広い傾向があった。4.マンモグラフィーで微細石灰化を認めた例ではこれのない例に比して有意に進展距離が大きかった。5.乳頭腺管癌が他型に比して有意に進展距離、角度とも大きかった。6.主腫瘍巣の乳管内成分の比率は有意に進展距離の大きさを反映した。7.面疱型の乳管内進展巣は非面疱型に比して有意に進展距離が大きかった。8.16例の進展様式は、【.encircled1.】浸潤癌巣から乳頭側に連続する中枢型(11例)、【.encircled2.】末梢、側方に連続する末梢型(3例)、【.encircled3.】広範囲に連続する混合型(2例)に分類され、【.encircled2.】【.encircled3.】は乳頭腺管癌、面疱型の乳管内進展巣に多かった。9.乳管腺葉糸の様々な部位に乳管吻合が存在し、一つの腺葉系を越えた広範な乳管内進展形成に関与していた。考察:本研究により乳管腺葉系間に多数の乳管吻合が確認されたが、こうした乳管吻合は広範な乳管内進展形成における乳腺組織構築上の新たな危険因子と思われた。今後さらに症例を積み重ねて乳癌の乳管内進展の特徴を一層明らかにし、進展の範囲と方向性を意識した過不足ない切除範囲の決定に応用していきたい。
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