研究概要 |
本研究の目的は、分裂病に特徴的な滑動性追跡眼球運動(SPEM)の異常を動物実験で再現し、その発生機序をつきとめることにあるが、特にこれまでの予備的研究から予想されていた、中枢ノルアドレナリンNA系が関与している可能性を確立するために、前年度にひきつづき以下の実験を行った。 1.サルの急性実験をくりかえし青斑核ニューロンを容易かつ確実に同定する方法を開発した。それはまず、刺激電極を脳幹に刺入し、電気刺激により咬筋収縮が筋電図上最も強い点を三叉神経運動核の中心とみなすことにより、個体差による脳定位座標の修正を行う。この座標に基づき中脳の背側NA上向路に刺激電極を進める。(背側上向路の同定は、この部位の電気刺激により、麻酔からの覚醒がおこることによっても確認できる。)青斑核ニューロンとの同定はこの背側上向路刺激により逆向性スパイクがみられることによる。 2.サルにサイン波に対するSPEMを訓練し、この運動への種々の薬物の全身投与又は青斑核へのmicroinjectionの効果を調べた。その結果、中枢NA系活動を抑制する薬理学的操作(例えばclonidineのmicroinjection)はいずれもサイン波を階段状に変換し、逆にこれを亢進する操作(例えばyohimbineのmicroinjection)は、サイン波に鋸歯状波の混入を誘発することを見出した。(colonidine,yohimbineはNA自己リセプターのそれぞれ作動薬、拮抗薬であり、NAニューロン活動を抑制又は亢進する。)これらの異常は、それぞれHolzmanの言うTypeI及びTypeII dysfunctionによく似ている。 3.青斑核ニューロンの活動が、SPEM遂行時に上昇することを観察したが、この活動は固視や脳波の脱徐波に一致しても上昇することを確認した。
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