研究概要 |
本年度には,まず簡易版携帯型可視分光センサーを用いて,実験室での鉄の化学形態の詳細な解析を行い,赤鉄鉱と針鉄鉱の区別,水酸化鉄の結晶化度等の判定が可能となった.また,岐阜県犬山地域のチャートの色を野外で測定し,上記の基礎データに基づいて解析を行なった.その結果,犬山チャートにおいて報告されているToarceanのanoxic event境界付近では,境界から上位へ向かって黒,緑,黄,紫,赤という色調の変化,黄色は針鉄鉱に,紫赤系は赤鉄鉱に対応することがわかった.これは,実験室での鉄の沈殿・結晶化実験を基に考えるとチャートの堆積環境が次第に酸化的になったことのみならず,pHも上昇したことを示唆する. 一方,可視から近赤外にかけての広い波長範囲(400-2500nm)を精度良く測定できる携帯分光センサーの試作第1号機が完成し,実験室及び野外での測定を行った.このセンサーは十分に携帯性があり(約8kg),約8秒で上記波長領域を測定することができる.この波長範囲では,可視センサーでは分析できなかった2価鉄の吸収帯(1000nm付近)や水(1400,1900nm付近),さらには,天然有機物の官能基のいくつかの化学形態の迅速分析が期待される.まず,上記犬山チャートの緑色部分については,1100nm付近にFe2+の吸収帯が確認できた.現在,実験室において,2価鉄を含む緑泥石等の鉱物のスペクトルを評価中である.また,水の吸収帯については,様々な堆積岩・堆積物について,その含水量・孔隙率とこれらのピーク強度の相関を調べた.その結果,孔隙率(水に満たされた)と吸収ピーク強度の間には,明瞭な正相関が認められた。そして,孔隙率の低い堆積岩では1900と1450nmの,孔隙率の高い堆積物では1450と900nmの吸収帯を用いることによって,孔隙率の迅速かつ定量的な評価を行なうことが出来ることが判った.
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