本年度は、昨年度の結果をふまえて、電子顕微鏡の仕様を決定し、数多い改造を含め、実際に電子顕微鏡の製作を行った。実験としては、低電子線量法の改良と、クライオトランスファーの最適化のための真空系の見直しに特に重点を置いた。 実際の蛋白質結晶の観察にあたっては、氷包埋試料を用いるため、電子線損傷の最小化と、試料の汚染を防止することが極めて重要になる。低電子線量法では、電子線回折との有機的結合をはかるとともに、傾斜試料のために多点でフォーカスを合わせられるようにした。また、これまで目的とする領域に不必要な電子線が照射されるのを防ぐためには、ビームを振ることによって逃げていたが、電子銃のバイアス電圧や、フィラメント電流を変化させる方法も検討した。その結果、電子銃のバイアス電圧を変える方法が使え、ビームを振る方法よりも優れている可能性があることが判明した。一方、氷包埋試料の観察の最適化のために、クライオトランスファー時の霜の発生を防ぐシールドの開発を行うとともに、試料汚染防止装置の効果の検証、ドラッグポンプを用いた粗引真空系の最適化を図った。実際、配管材料等を見直すことにより、これまでよりも2ケタ良い真空度を得られることがわかった。このことは、フィルムから発生する水蒸気による試料の汚染を防ぐのに大きな効果があるはずである。 数多くの改良によって、蛋白質結晶の構造解析のために最適化された電子顕微鏡をつくりあげることが出来たが、電子線回折パターンの収集は、非常に限られた予算のために満足できる結果が得られたとは言い難い。
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