研究概要 |
1.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスの生産ならびに供給 本研究に用いたマウスの系統維持は,ホモ個体が得られないため,導入遺伝子をヘテロにもつC57BL/6J Jcl系♂と非導入BALB/cByJ系♀の戻し交配により行った.生産は,体外授精法により2細胞期まで発育させた胚を偽妊娠マウスに卵管移植し,さらに,SPF化のため胎児を帝王切開により摘出し清浄里親に哺育させた.本法による成績は,受精率は66.8%,出産率は52.3%,離乳率は88.8%,導入遺伝子が確認された率は53.8%であった.本年度は,358匹のトランスジェニックマウスを生産し283匹を供給した.なお,自然交配による生産についても検討したところ,その成績は出産率は71.2%,離乳率87.2%,導入遺伝子が確認された率は42.4%と体外受精および胚移植を応用した方法とほぼ同程度の成績が得られ,自然交配による方法も大量生産に有用な方法であると考えられた. 2.導入遺伝子の解析法の開発 トランスジェニックマウスの導入遺伝子の解析は,これまで切断尾部および発生した腫瘍について,PCR-サザンプロット法により遺伝子のコドン12の点突然変異を検索した.今回はさらにPCR-SSCP法により増幅した遺伝子のコドン12の点突然変異を検索した結果,PCR-SSCP法は,所要時間が短く放射性プローベを用いないことから,c-Ha-rasがん遺伝子解析のスクリーニング法として有用な方法であると考えられた. 3.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスの発がん性試験における特性,有用性 (1)4NQO,CyclophosphamideおよびMNUを用いた試験:ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスに典型的なgenotoxic carcinogenである薬物をそれぞれ投与した結果,4NQOでは皮膚および肺に,Cyclophosphamideでは肺に,MNUでは皮膚および前胃に,それぞれ早期に高率に腫瘍が発生した.このことからヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスは,genotoxic carcinogenの検索に有用な実験動物であると判断された. (2)四塩化炭素を用いた試験:ヒト活性型ras遺伝子を導入したマウスでは肝癌が高率に発生することが知られているが,今回用いたヒトプロト型ras遺伝子導入トランスジェニックマウスでは肝癌は発生しない.そこで,ヒトプロト型ras遺伝子導入トランスジェニックマウスに肝細胞壊死,再生を惹起する四塩化炭素を投与し,肝腫瘍の発生について検討したところ肝腫瘍の発生が認められた.したがって,ヒトプロト型ras遺伝子導入トランスジェニックマウスにおける肝腫瘍発生には,慢性的な壊死,再生等の要因が必要であることが示された.
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