研究分担者 |
高垣 善男 中外製薬研究所, 研究本部長
秦 順一 慶応義塾大学, 医学部, 教授 (90051614)
玉置 憲一 東海大学, 医学部, 教授 (50055860)
野村 達次 財団法人, 実験動物中央研究所, 所長 (10072399)
田中 悟 国立衛生試験所, 安全性生物試験研究センター, 室長 (90124388)
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研究概要 |
1.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスの系統維持および生産:本研究に用いたトランスジェニックマウスは,ホモ個体が致死するため,導入遺伝子をヘテロにもつC57BL/6JJcl雄と非導入BALB/cByJ雌の戻し交配により行っている.BALB/cByJ雌から得た卵に体外受精を行い,2細胞期胚を得,偽妊娠雌に胚移植して,トランスジェニックマウスを生産した.本法による成績は,受精率80.9%,出産率57.3%,離乳率87.8%,導入遺伝子が確認された率48.5%であった. 2.ras癌遺伝子の点突然変異の安定性の検討:マウス体内のras癌遺伝子の点突然変異・性状がどの程度安定に保たれるかは不明の点が多い.そこで免疫不全動物に継代移植・維持したヒト腫瘍Xenongraftにおけるc-Ki-res癌遺伝子のコドン12の点突然変異の安定性をPCR-Southern blot法により検討した.ヒト腫瘍Xenongraftから精製したDNAに標識オリゴヌクレオチドプローブを用いて解析したところ,継代移植Xenongraftと原発腫瘍での点突然変異様式に差が認められなかったことから,移植によりマウス体内で長期間ヒト腫瘍を継代した場合でも,ras癌遺伝子の性状は安定であると考えられた. 3.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスのgenotoxic carcinogenによる発がん性試験:MNNGをトランスジェニックマウスに投与すると,雌雄ともに全例に前胃の乳頭腫および過形成が認められ,一部は偏平上皮癌も認められた.前年報告の4NQO,cyclophosphamide,MNU等と同様に,早期に高率に腫瘍が発生したことから,本マウスはgenotoxic carcinogenの検索に有用な実験動物であると判断された. 4.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスのnon-genotoxic carcinogenによる発がん性試験:砒素あるいはエチレンチオウレアをトランスジェニックマウスに投与したが,いずれも腫瘍の発生は認められなかった.しかし用量に依存した臓器重量の変化が認められことから,臓器特異性は非導入マウスと同様であると判断された. 5.四塩化炭素を用いた試験:マウス肝細胞癌発生にはH-ras遺伝子の関与が推定され,また,四塩化炭素はマウスに肝細胞癌を惹起することが知られている.ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスに四塩化炭素を腹腔内に投与し,肝細胞癌の発生について検討した.投与20週でトランスジェニックマウスに肝細胞癌の発生が認められた.直径4mm以上の腫瘍はhepatocellular carcinoma(HCC)と診断した.32週では全例にHCCが発生した.本マウスでは四塩化炭素により肝細胞癌の発生が促進されることが明らかとなった.
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