研究概要 |
本年度のヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウス(Tgマウス)の計画生産は体外受精法により2細胞期胚を偽妊婦親マウスに移植する方法および凍結受精卵を移植する方法により行い520匹から10,557個の卵を採取し8,270個の2細胞期胚を得た.2細胞期胚および凍結受精卵を移植し3,467匹の産児を得て離乳児は3,093匹であった.遺伝子解析により1,556匹のTgマウスを得た.Tgマウスの体重を4〜52週間測定したところ雄雌ともにnon-Tgに比較して低かった.10および30週齢時の器官重量はTgマウスの精巣がnon-Tgに比較して大きい傾向がみられ,また,血清生化学検査ではトリグリセライドに雌雄差が認められた. Tgマウスの導入遺伝子の生産過程における解析はPCR法により行った.すなわちヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子のexon1およびexon 2の領域を増幅するprimerを設定しPCRを行い,それぞれの領域を増幅したDNA断片を得た個体をTgマウス,また増幅しなかった個体をnon-Tgマウスと判定した.なお,このPCRでは内在性のマウスプロト型c-Ha-ras遺伝子は増幅しないことを確認した.発生した腫瘍組織中の導入遺伝子の点突然変異を迅速に検出するシステムを確立した.すなわち腫瘍組織からgenomic DNA を抽出しexon1のコドン12(GGC)の変異はHpaIIによる制限酵素切断法,exon2のコドン61(CAG)の変異はPCR-SSCP法によりスクリーニングを行いこれらのPCR産物をAuto Sequencerを用いたダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し変異のタイプを明らかにした. TgマウスにVinyl carbamateを1回腹腔内投与し肺および脾の腫瘍発生について16週間観察した.肺の腫瘍はnon-Tgに比較して3〜5倍多く発生し大きさも3mmを越える腫瘍が認められた.これらはhyperplasia, adenoma, carcinoma, hemangiosarcomaでありnon-Tgに比較して悪性度の高い腫瘍が多く認められた.脾はTgマウス雌雄の殆どにhemangiosarcomaが認められたがnon-Tgでは1例のみであった. Tgマウスに四塩化炭素の慢性投与を行うと5倍の肝腫瘍発生をみた.ras遺伝子発現の増加について肝組織および肝腫瘍組織よりmRNAを抽出しCompetitive PCR法で測定したところ,単独で線維芽細胞を形質転換させるためには不十分な量である通常の2〜3倍の遺伝子発現のみでも四塩化炭素慢性投与でTgマウスは肝腫瘍発生が促進されることが明らかとなった. 以上の結果からヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウスは,発がん性試験の短期化に有用な動物であると判断された.
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