「炭素-炭素結合形成」は最も基本的な有機化学反応の一つである。とくに、Grignard反応に代表される有機金属反応剤のカルボニル化合物への付加反応は普遍的合成操作といえる。光学活性アルコール類の一般的構築を可能にするその不斉反応化は有機合成化学の中心的課題であり、さらに、大量物質生産の観点からも理想的である化学的不斉増殖を目指す触媒化の開拓が強く望まれる。本研究者は、分子レベルでの合理的な錯体構造設計に基づく最高至適な反応系の構築がいかようにも可能である原理的利点をもつ有機金属化学を縦横に駆使し、高度な三次元空間認識能およびアルキル化反応促進作用をあわせもつ有機亜鉛錯体を合成、アルデヒド類の高エナンチオ選択的触媒的アルキル化をはじめて実現した。この化学的不斉増殖法においては、低い鏡像体過剰率の不斉源を用いても、高い光学純度の生成物が得られる不斉増幅現象が観測される。これまでに、本反応における不斉増殖・増幅機構を定性的に理解した。本年度では、多種多様な触媒誘導体の組み合わせによって生じる結晶性有機亜鉛化合物の構造データを独自に収集し、動的核磁気共鳴分光実験、磁気飽和移動実験、ストップト・フロー実験、反応遷移状態を簡素化したモデルのab initio分子軌道計算の結果とあわせて、反応機構を定量的に理解することができた。不斉触媒反応における触媒活性種の自己・非自己認識の重要性を指摘した。さらに、これまでに得られた研究成果を基盤に、プロスタグランジンをはじめとする有用物質の合成のための物質基盤となる種々の光学活性二級アルコールを実際に合成した。所期の目的を完全に達成することができた。
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