今年度の実績として、極微領域間原子移送機構の心臓部である3次元粗動部を完成させたことが挙げられる。本機構は、ピエゾ素子慣性駆動モータと一体構造であるマイクロメータネジによって前・後進できる超高真空用リニアステージをxyz3方向に組み合わせたものである。到達真空度が5×10^<-11>Torrの超高真空槽内に設置され、順調に稼動している。本粗動機構と組み合わせたSTMの性能も、Si(111)7×7構造の原子像を鮮明に確認できるほどである。この装置の調整を十分に行うことによって、粗動接近時に起こりがちな、探針と試料間の原子移送を伴なう“ソフトな接触"も回避できた。この現象の確認にも本装置の特色である探針評価用FEMとの併用が役に立った。すなわち、探針と試料面が接近しているSTM観察モードからFEM観察モードに迅速に切り替え、探針先端の形状と仕事関数の変化を評価し、また、元のSTM観察モードに戻すことに成功している。さらに、STMの探針ホルダーに入れたまま高電圧印加・高温加熱ができるので、本実験において欠かすことがえきない探針の先鋭化・清浄化も簡単にできる。このような洗練された実験を行うことにより、原子単位での信頼性のある実験が可能となった。 研究遂行中に発見した点として、極めて先鋭化した探針先端からの電子放射パターンが原子配列に対応しているいことがあった。しかし、その像の意味するところを正確に評価できる段階にまでは達しなかった。探針先端に付着した試料原子の可能性もある。探針先端の電子状態に敏感なSTS法、FEES法と併用した確認手法の検討をしている。
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