前年度までに完成させた、ピエゾ素子慣性駆動マイクロメータネジによって前・後進できる超高真空用リニアステージをxyz3方向に組み合わせた3次元粗動機構を用いて、Si(lll)7×7表面を試料としてSTM/STS観察前後での走査探針のFEM像の変化を迅速に調べた.用いた探針は、[lll]方位の単結晶Wワイヤーから電界研磨法で作製したもので、超高真空中で高電界を印加したまま1000℃以上に加熱するT-F処理を施したものである.その先端表面のW原子以外の不純物は電界脱離されていて、先端は原子スケールで清浄で鋭利になっている.この探針を用いて、STS測定前後の探針のFEM像変化に注目しながら、STS測定時に掃引する探針-試料間電圧を-2〜2V、-3〜3Vの2通りに選んで実験した.各STSの測定前には、T-F処理により探針の清掃化と先鋭化をおこなった.その結果、-2〜2Vの範囲の掃引電圧のSTSスペクトルでは、Si(lll)7×7表面の特徴を表すエネルギー・ピーク位置が再現性よく得られた.ただし、ピーク強度の再現性は必ずしも良好ではなかった.一方、-3〜3Vの範囲の掃引電圧のSTSスペクトルでは、エネルギー・ピーク位置の再現性ですら悪かった.1フレームのSTS測定が終了した後ただちに、探針先端のFEM像を観察した.-2〜2Vの範囲の掃引電圧のSTS測定後のFEM像は、測定前のFEM像とほとんど変わることがなく、先端の仕事関数が低い(lll)面からの電界放射が安定に観察された.一方、-3〜3Vの範囲の掃引電圧のSTS測定後のFEM像は、測定前のFEM像とは異なって先端部が暗くなった.掃引電圧の影響で試料であるSi原子が走査探針に原子移送され、Siの吸着により電界放射像が暗くなったと考えられる。
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