研究概要 |
本研究は,従来の半導体素子とは異なり,電子の波動性を利用して素子内で電子波の干渉を起こさせることによってスイッチングを行う新しい原理の電子素子を,真空マイクロエレクトロニクス素子で実現することを目的としたものである。 (1)経路積分法を用いて,量子論的な観点から動作原理の検討を行った。素子モデルは,微小な冷陰極電子源から出た電子が,異なる外力場(電場)をもつ経路を通過し,そこでの位相変調により干渉を起こさせるというものである。素子の最小寸法は,現在の微細加工技術で十分対応可能な100nmとした。シミュレーションの結果,この提案した原理で,スイッチングが可能であること,ほぼゼロから最大値までの振幅が得られること,高い相互コンダクタンスが得られること,などが明らかとなった。また,電子波の干渉を有効に起こさせるためには,外力場へ入射させる電子はできるだけ平行であることが望ましいことがわかった。 (2)平行な電子線を発生させるための電子源の構造を,電子軌道シミュレーションによって検討した。その結果,引き出し電極と収束電極を持ち,しかも収束電極をできるだけ軌道中心から離した構造の電子源が最適であることがわかった。 (3)上記の最適電子源を,半導体微細加工技術を応用して作る場合に,フォトマスク1枚で電子エミッタ,引き出し電極,収束電極を作製できる新しい自己整合法を開発した。この方法により,数十ボルト程度の低電圧で動作する冷陰極電子源を作製できることがわかった。 (4)ダイヤモンドを電子源材料として応用するための基礎検討を行った。シリコンよりも低電圧で安定動作する見込みを得た。
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