本年度は、光トラッピング技術を軸とした微小物体の捕捉・転送技術の新しい展開を狙って行われた。 まず、金属微粒子の光トラッピングを試みた。光トラッピングは従来は透明物体にのみ適用可能であると考えられていたが、本研究では新たな可能性を探ってみた。実験的には光トラッピングが観測されたものの、2種類のレーザー光モードに対しても、同様に光トラッピングが観測された。これらの様子を詳細に検討するために、幾何光学理論に基づく光トラッピング力の計算を行った。計算は、これまで報告されている方法に対して吸収の効果を付加している。その結果、光トラッピングに対して吸収が大きく影響を与えることが明かとなった。つまり吸収の増大に伴い、光軸方向およびそれに垂直な方向の力が減少していき、やがて光トラッピングが不可能となるという結果が得られた。さらに、金属のように大きな消衰係数を有する物体については、レーザー光ビームの焦点が物体の下部にある場合にのみ光トラッピングが可能であるという、透明物体とは際だった差異が見られた。しかしながら、この様子は実際に実験で観測されたことと極めて類似しており、本実験および計算の結果の妥当性を示唆しているものと考えられる。この他、半導体のように消衰係数が低く屈折率が高い物質についても計算によって光トラッピング力を推定したところ、よく用いられている波長が1μmのレーザー光に対しては光トラッピングが難しいものの、適当な波長に対しては光トラッピングが実現できることを示すような結果が得られた。このことが実験的に確認されれば、基礎研究だけでなく応用研究上も極めて重要な知見となるものと考えられる。
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