本研究は、非接触・非破壊な光トラッピング技術を用いた微小物体の超精密なマニピュレータの実現を目指して、その基盤的技術要素の開発を行ったものである。特に、これまで実現されていない不透明物体の光トラッピング技術の開発と、光へテロダイン干渉法に基づく精密計測法の開発を行った。 まず光トラッピングに関しては、金や銀などのマイクロメーター程度の大きさの金属微粒子に対して実験を行い、世界で初めて観測に成功した。さらに、発生する力学的力の大きさや向きを幾何光学論理に基づいた計算方法を独自に開発し、種々の物質に対して計算を行った。その結果、金属微粒子の実験結果と極めて一致することが明らかになった他、屈折率が大きいために従来は光トラッピングが極めて難しいと考えられていた半導体などの物質に対して、適切なレーザー波長を選択することによって可能となることが見いだされた。これらの知見によって、ほとんどの物質に対して光トラッピングが適用できることが明かとなり、従って超精密なマニピュレーションの実現への期待も大きくなったと言える。 次に、光トラッピングで捕捉した物体からの散乱光と参照光との干渉によって得られる信号の位相から、物体の位置に情報を、ナノメートル程度の分解能で計測することのできる、光へテロダイン干渉法の基礎実験を行った。その結果、簡単な構成で超精密な物体の位置決めを行うことが可能であることが見いだされた。 以上の技術を総合することによって、微小物体の捕捉・転送を行う全光学的超精密マニピュレータの基盤技術が確立できたと考えられる。
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