原子状酸素発生装置/超高真空対応トライボメータ/オージェ電子分光装置を設計・製作し、原子状酸素照射下の単結晶MoS_2、スパッタMoS_2膜、有機バインダーMoS_2膜のトライボロジー特性を調べた。なお、原子状酸素の照射実験は低地球軌道(LEO)環境をシミュレートするため、原子状酸素のビームエネルギー5eV、フラックス5.5×10^<15>atoms/m^2・s、真空度10^<-6>Paに設定した。単結晶MoS_2の場合、未照射では0.03であった摩擦係数が照射とともに増大し、5時間照射後には2.0を越える大きな値となった。この表面からはS及びMoのオージェピークは観察されず、相手材料であるTi-6Al-4VのTiがMoS_2表面に移着するという著しい凝着が生じていることが判った。スパッタMoS_2膜の場合にも同様な傾向が顕著に見られ、原子状酸素照射による摩擦の増大はMoO_3、MoO_2及びMoO_xというモリブデン酸化物の反応生成に起因することが確かめられた。有機バインダー膜は未照射の場合の摩擦係数が約0.05と若干高いものの、5時間照射後にも0.1程度の摩擦係数にとどまることが判った。有機バインダー膜の場合にはポリアミドイミド等に含まれるC及びOの影響によって、表面からSがガス化しにくい傾向が見られ、また酸化層も薄く、このため単結晶及びスパッタ膜よりも安定したトライボロジー特性を示すと結論した。また、MoS_2試料周辺にスリーブを設置することにより原子状酸素の再結合を促進させて摩擦実験を行ったところ、0.01を下回る良好な低摩擦が得られた。COの混入は低摩擦の実現に有効であることを認めたが、紫外線照射は逆に摩擦を増大させる結果となった。レーザーデソ-プションからはSO_3も検出され、Sを安定化させることが超低摩擦にも重要であること、メゾスコピックな特性評価が基本であることを指摘した。
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