平成5年度は、透明導電材料としてインジウム-スズ酸化物(ITO)を用いて研究を進め、次のような結果が得られた。 1)ITOの熱処理効果の基板依存性についてXPS測定により化学結合分析を行い、その結果基板に酸化物を用いた場合に熱処理によるインジウム原子の基板への拡散が抑えられ、ITOが安定であることを明らかにした。この成果はITOの基礎物性と素子への応用との両面で評価されるものと考えている。 2)ITO基板上の酸化物Y‐Ba‐Cu‐O(YBCO)薄膜が、液体窒素温度領域で超伝導を示す成膜条件を見い出した。 3)YBCO/ITO/YBCO接合を作製し、その電流-電圧特性を測定したところ、weak link型で期待される結果が得られ、SNS接合デバイスができることを示した。ただし下部電極としてのTBCOがbulk(焼結体)と薄膜の場合では特性が異なっている。また臨界電流の温度変化の度合いは通常のSNSと比べ変化が少ない。 4)結果3)については、TBCO/ITO界面状態が重要な役割を果たしていると考え、YBCO‐ITO単独接合を作製してその電流-電圧特性を測定したところ、TBCO側がプラスとした場合の高バイアス電圧領域で指数関数的に電流が増加するという特性が得られ、また整流性も確認できた。更にこれらの性質は、YBCOが薄膜よりbulkの場合に顕著に観測された。これらの結果は界面におけるショットキー障壁の存在を示唆している。 以上の成果から透明導電性膜を利用して酸化物超伝導デバイスが作製できることを実証した。特に興味ある点は、実験結果からYBCO/ITO界面で何らかのエネルギー障壁が存在すると考えられ、従来のノーマル金属を介した接合とは性質を異にする新しいタイプの超伝導デバイスとなる可能性はあることで、この点を掘り下げることを今後の課題の1つとしたい。
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