本研究は、金属酸化物の透明導電性膜をノーマル金属(N)として用いることにより良質なSNS(S:超伝導体)接合型高温超伝導デバイスを試作することを目的として遂行された。まず、YBa_2Cu_3O_7(YBCO)とインジウムースズ酸化物(ITO)の単独接合の電流-電圧(IV)特性について、ダイオードに対する一般式I=I_0exp(eV/nkT)を用いて解析した。その結果、"判定指数"nは0.5〜0.8となりショットキー接触的であると言う結論に達した。理想的なショットキー接触を仮定して、そのエネルギー障壁の温度依存性を調べると、温度と共に直線的に増加している。これは接合面付近に界面層が存在することを示唆している。基板界面におけるITOの性質を調べるために、その熱処理効果についてXPS測定により化学結合解析を行い、その結果基板に酸化物を用いた場合に熱処理によるイソジウム原子の基板への拡散が抑えられ、ITOがより安定であることを明らかにした。 次にN層としてITOとインジウム酸化物(スズを含まない)In_2O_3の2種類を用いたSNS接合の特性を調べた。その結果、両者とも室温では直線性を示し、液体窒素温度ではジョセフソン素子と定性的に一致する特性が得られた。素子特性はIn_2O_3を用いた場合の方が優れているようである。ところで、In_2O_3を用いたSN接合の逆方向特性に微分負性抵抗が現れる場合がある。これはN層の不均質部分での電子なだれ等によるものと考えられ、スイッチング素子として使える可能性もある。 以上の結果から透明導電性膜を用いて酸化物超伝導デバイスが作製できることを明らかにした。またYBCO/ITO界面ではショットキー障壁が存在すると考えられ、この効果を利用して従来のノーマル金属を介した接合とは性質を異にする新しいタイプの超伝導デバイスの開発が期待できる。
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