研究概要 |
陽電子寿命測定法は格子欠陥の研究において極めて有用な手法であるが,従来法であるγ-γ同時計測法では陽電子線源と試料が密着しているため,試料や測定条件に様々な制約がある.そこで本研究では試料と陽電子線源が分離されたβ^+-γ同時計測による陽電子寿命測定装置を試作した. β^+-γ同時計測法では,scintillatorで直接陽電子を検出してstart信号とし,stop信号として電子との対消滅の際に出る0.511MeVのγ線を用い,この時間差を測定することによって陽電子寿命スペクトルを得る.本研究ではstart detector,stop detector以外にcoincidence detectorを用いる方法をとり,できるかぎり試料以外の寿命成分を減らすことを試み,また,陽電子線源として陽電子のエネルギーが1.89MeVと大きく,β^+崩壊時にでるγ線の少ない^<68>Geを用いている. これまでに得られた結果は以下のとおりである. 1.同一試料について得られる寿命値は従来法とほぼ一致している. 2.装置の時間分解能は約300psである. 3.試料の寿命成分以外に約1100psという長寿命成分がある.これは試料表面や空気中で形成されるオルソ・ポジトロニウムのpick-off消滅が原因であると考えられる. 今後,β^+-γ法を高温測定に応用するために高温測定用チャンバーの試作を完了し,このチャンバーを用いて従来法では測定不可能であるTiAl等の金属間化合物の高温熱平衡測定等を可能にする予定である.また,将来的には単一エネルギー陽電子ビームの使用を試み,時間分解能の向上を目指したい.
|