研究概要 |
陽電子寿命法は結晶中の空孔やその集合体・転位等を極めて敏感に検出し,その種類と量を識別することができるユニークな手法である.しかし従来多用されてきたγ-γ同時計測法は,陽電子線源と試料を密着させる必要があり,測定環境(温度等)や試片の形状・種類などに制約があった.この制約を取り除き,簡便に高温熱平衡や応力下での陽電子寿命その場測定を可能にするため,β^+-γ同時計測による陽電子寿命スペクトロメータの試作を進めた. 陽電子線源には^<68>Ge(約3MBq)を用い,0.5mm厚のプラスチックシンチレータ(Pilot U)で直接陽電子を検出しスタート信号とした.陽電子が対消滅した時刻は消滅γ線をBaF_2シンチレータを用いて検出した.試作されたスペクトロメータを用いて,既知試料について測定を行い,従来法と同じ結果が得られることを確認した.またシステム全体の実効的な時間分解能として約300psが得られ,この手法を用いた装置の時間分解能として世界最高を達成した. 時間分解能の更なる向上をめざして,分析電磁石を用いて線源からの白色陽電子線のエネルギー選別を行うことを着想し,計算機実験を行い大幅に分解能の向上が計られることを示した.その一方,エネルギー選別による計測効率の劣化は避けられない.この計測効率の改善に向けて,(1)より効率的なエネルギー選別,(2)より強力な線源の利用,の2点について検討を加え,前者については高効率な磁界型レンズの設計を進め,後者については線源に^<63>Cu(n,γ)^<64>Cu反応による^<64>Cuを用いる準備を進めている.本システムの完成により,大型加速器を用いずに,あらゆる材料・物質の様々な極端条件下(高温,低温,応力下等)での格子欠陥のその場測定が可能となろう.
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