この研究は、金属の多層構造を圧縮加工の繰り返しプロセスによって、どこまで微細に作り得るかを実験的に調べる事を目的としている。先ず、相互に常温では溶け合わないAg-Cu系合金系について実験を行った結果を述べる。実験法は、AgおよびCuの約20ミクロン厚のフィルムを交互に約100枚重ね、これを1回につき約1/2の厚さに圧縮加工する操作を最大20回繰り返した。その結果層間隔が、約50nmのAg-Cuの積層構造が作成された。又、フィルムでは無く、粉体のAgとCuの混合したものを200回繰り返しプレスする実験を行ったところ、AgとCuとの相互の拡散が進み、非平衡のAg-Cu固溶合金の形成することが明らかとなった。このような繰り返し変形による積層構造作成の手法を、ガラスと金属の2層構造材料に応用した例を次に述べる。すなわち、約100ミクロンのソーダガラス板にAuを約20nmスパッタリングにより堆積してこれを約100〜200枚重ね、約700℃の炉中にて圧縮して約1/20の厚さに変形した。これを再び繰り返して、約10〜1μmの間隔でAu膜を有するガラス積層体を作成することが出来た。Au金属は炉中で球形(直径数10ナノメートル)のコロイド状態で平面的に分散しており、Au粒子による光の散乱が面上で生じ、レーザー光をこの膜面に平行に入射することにより光の回折現象が観測され、バルクの光回折格子であることが確かめられた。又光の偏光も生ずることが確認出来た。これらの繰り返しプロセスによる異種物質の積層、混合の過程をカオスの理論に基づく解析が行われ、繰り返しプロセスの有効性の原理が示された。
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