研究概要 |
目的:アルツハイマー型痴呆症は大きな社会問題になりつつある.近年神経成長因子(NGF)が前脳基底核コリン作動性神経の成長因子であることがわかってくると,まさにこの部分に顕著な障害のあるアルツハイマー症の原因はNGFの欠乏によるのではないかとの可能性がでてきた.もし脳でのNGFの合成を促進する物質が食品中に見い出されれば,薬剤として与えられるよりはるかに安全で長期間摂取できはずである.本研究は有効成分をできるだけ簡便にスクリーニングする方法を検討することに主眼を置いた.すでに脳のアストログリア細胞はNGFを作ることが知られている.そこでその培養系を用い,各種食品成分を添加して生成するNGFを酵素免疫法により測定する方法を検討した.まずマウスの生後3日以内の新生児の脳からアストログリア細胞を分離,培養する方法を用いた.しかしこの方法では得られる結果が安定せず,その解決に多大の時間を要した.そこで次にアストログリア細胞をウイルスによってトランスフォームし,セルライン化したものを用いた.それによってやや安定した結果が得られるようになった.しかしこの系ではNGFの生成量が小さいのが問題であった.そこでさらに初代培養細胞からアストログリア細胞のみをクローニングすることを試みた.その結果,NGF生成量の大きいクローンを得ることに成功した. 結果:1)植物の二次代謝産物の効果:カフェイン,カフェイン酸,クロロゲン酸,クマリンは0.01-3mMの濃度範囲でNGF生成に対する効果は見られなかった. 2)アミノの酸の効果:まずトリプトファンには0.03-0.1mMの範囲で明らかなNGF生成促進作用が認められた.そこで次にトリプトファン関連化合物の作用について検討した.まずキヌレン酸には0.1-3mMの広い範囲に亘ってNGF合成促進効果が見られた.キノリン酸には1mM以上の高い濃度でトリプトファンに匹敵する促進作用が見られた.特に注目されるのはキヌレニンで,0.03mM付近の低い濃度でNGF生成を強く促進した.その他メチオニン,グルタミン,フェニルアラニン,そして神経伝達物質であるグルタミン酸には0.01-3mMの範囲で効果は見られなかった。
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