研究概要 |
オオチョウザメ雌とコチョウザメ雄の一代雑種であるベステルは飼育環境下では産卵しないと言われている。そのため、その稚仔魚を安定して得るためには、人工種苗生産技術の確立が必要である。我々は、これまでの組織学的な基礎研究により、採卵及び採精の適期は12月から4月の間であることを明かにした。そこでこの結果を参考に、LHRH-aの投与により排卵及び排精を誘起するとともに、これまで血中にほとんど認められなかった17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(DHP)の出現状況を調べた。 実験には北海道電力総合研究所の養魚池で飼育されている12及び13年魚(平均尾叉長100.8cm、平均体重8.1kg)を用いた。'93年3月、4月及び7月にアジュバントと混合したLHRH-aを1000〜3000μg/個体の割合で筋肉注射した。LHRH-aは、まず雄に投与し排精を確認した後、雌に投与し採卵・採精を試みた。また、4月7月にLHRH-a処理した個体については、注射1時間後から72時間後まで一定時間毎に採血し、血中のDHP量の変動をラジオイムノアッセイ法により調べた。 その結果3月にLHRH-a処理した16個体の雌と14個体の雄のうち、それぞれ2個体と9個体、4月は10個体の雌と12個体の雄のうち、それぞれ4個体と11個体から採卵及び採精することができた。7月は10個体の雌と9個体の雄のうち、雄は全個体から採精できたが、採卵できた個体は1個体のみであった。3、4月に得られたものを用いて人工受精を行った結果、それぞれ2,200尾と10,000尾の仔魚が得られた。ホルモン処理後の血中DHP量は、排卵及び排精が観察されなかった個体では処理前には0.2ng/ml以下であり、処理後でも約0.5ng/mlにしか上昇していないのに対し、排卵及び排精が観察された個体では処理前で0.3ng/mlであったが、処理後には0.7〜2.0ng/mlと数倍に上昇していた。この結果は、ベステルの排卵及び排精の誘起にDHPが深く関与していることを示唆している。
|