研究概要 |
本研究班の平成5年度の主要な研究成果は以下のように要約される。 1.アクチン・ミオシン間の単一滑り距離の測定:われわれはすでにウサギ骨格筋のミオシンをコートしたガラス微小針をシャジクモ巨大節間細胞のアクチン線維束(アクチンケーブル)上に滑走させる実験系を開発し(Chaen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:1510-1514,1989)、これを用いてアクチン・ミオシン間の滑りの荷重・速度関係をIn vitro実験で初めて測定し、さらにこの実験系とATPの電気泳動投与法とを組み合わせることにより、アクチン・ミオシン間の滑りの見かけ上の効率を測定することに成功している(Oiwa et al.,J.Physiol.London 437:751-763,1991)。 われわれは後者の方法を用いてアクチン・ミオシン間の最小単位滑り距離の測定に成功した。あらかじめ実験液中にhexokinase-d-glucoseを適当量加えることにより、アクチンとミオシン間のATP投与に対する滑りを抑制することなく、実験系中に放出されたATPをすみやかに除去することが可能である。これにより、電気泳動的に投与するATP量を徐々に減少させたところ、ATP投与量が電気量で10-20クローンの範囲で、アクチン・ミオシン間の滑り距離が約10nmを単位としてステップ状に変化することが見出された。この結果は、アクチン・ミオシン間の最小単位滑り距離が約10nmであることを強く示唆している。 なお、この結果はわれわれが単一グリセリン抽出筋線維をcagedATPの光分解によるATP放出により活性化したさいの筋節の半分あたりの最小短縮距離、すなわちアクチンフィラメントとミオシンフィラメント間の最小滑り距離が約10nmである結果とよく一致している(Yamada et al.,J.Physiol.London 466:229-243,1993)。 2.アクチン・ミオシン間の滑りの効率の荷重依存率の分子的機構:われわれはすでにミオシンをコートしたガラス微小針がアクチンケーブル上を滑走したさいになす仕事量を種々の初期荷重において測定し、アクチン・ミオシン間の見かけ上のエネルギー変換効率(電気泳動的に一定量のATPを投与したさいの仕事量から求められる)が初期荷重増大とともに増大することを見出している。(Oiwa et al.,J.Physiol.London 437:751-763,1991)。われわれはさらにこのような実験条件下でのガラス微小針の動き(つまりアクチン・ミオシン間の滑り)の時間経過を詳細に調べた結果、アクチン・ミオシン間の滑り速度の時間経過は初期荷重によらずほとんど一定であることを見出した。この結果は、従来生きた骨格筋の基本的性質である荷重・速度関係や荷重・エネルギー関係がHuxleyの滑り模型が説明するようなアクチン・ミオシン間の結合の数の増減によるものではなく、個々のアクチン・ミオシン間の結合のエネルギー変換効率が荷重によって変化する機構の存在を強く示唆している。
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