研究課題
平滑筋細胞の増殖は動脈硬化病変の形成や動脈血行再建術後の再狭窄において重要な役割を演じている。我々は、平滑筋細胞に認められる4種のミオシン重鎖のcDNAクローニングを行ない、成熟した平滑筋のマーカーであるSM1ミオシン重鎖と、増殖期に再発現するSMembミオシン重鎖を同定した。これらのミオシンは血管平滑筋の障害を診断したり、血管特異的に障害をもつモデル動物の開発に有用である。そこで本年度は、SM1ミオシン重鎖とSMembミオシン重鎖の遺伝子を単離し、それぞれ平滑筋特異的遺伝子発現と平滑筋増殖に対応して活性化されるシスエレメントを同定した。SMemb遺伝子についてはさらに、このシスエレメント(転写開始点から-100bp)に特異的に結合する蛋白の存在をゲルシフト法で確認した。SM1遺伝子は現在知られている唯一の平滑筋特異的に発現する遺伝子である。SM1プロモーターをLacZ遺伝子に連結してトランスジェニックマウスを作成することにより、平滑筋細胞の由来を知ることが可能で、現在その準備中である。SM1ミオシンのイムノアッセイを確立して血中SM1を測定することにより、大動脈解離や血管炎の生化学的診断が可能となる。本年度は抗SM1抗体によるアッセイをまず確立した。アッセイの感度は10ng/mlで、骨格筋、心筋ミオシンとは交差反応が認められなかった。大動脈解離の臨床例を用いた予備的検討では、血中SM1ミオシンは発作後24-30時間は高値(約20ng/ml)となり、その後速やかに正常値化した。平滑筋増殖を抑制するための遺伝子治療法の基礎的検討として本年度は新しいgene delivery systemの開発を行った。これは磁性細菌が産生する100nmのマグネトソームを用いるもので、リポフェクチン、DNA、マグネトソームのミセルを培養平滑筋細胞に添加すると、静磁場誘導により、DNAが目的とする範囲に数100-1000倍の効率で導入されることが明かとなった。
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