研究概要 |
原因不明の自己免疫疾患の病因論的な解析を進めていくうえで好適な疾患モデルの確立が急務とされてきた。舌下腺粘液細胞分化に異常を来すミュータントNFS/sldマウスに生後3日目の胸腺摘出(3d-TX)を施すことにより唾液腺・涙腺に限局した自己免疫病変の誘導が可能であることからヒト原発性シェ-グレン症候群のモデルマウスとして初めての報告がなされた。即ち、実験群において生後4週齢より24週齢まで顎下腺・耳下腺・涙腺にヒトSSに極めてよく類似した自己免疫性病変が臓器特異的に発症し、SSの臨床病態と同じく雌優位の性差が認められた。免疫組織学的観察から浸潤リンパ球の主体はCD4陽性T細胞であり、少数のCD8陽性T細胞、B220陽性B細胞、Mac-1陽性抗原呈示細胞を混えていた。自己免疫病変を発症するマウス血清中にはIgG型の高力価の坑唾液腺導管上皮自己抗体が検出された。新たに開発した疾患モデルマウスNFS/sld、および自己免疫性唾液腺炎・涙腺炎を自然発症することがよく知られているMRL/lprマウスを用い、発症に関与する各種サイトカインの異常産生・細胞接着分子の関与、および組織破壊に直接関与する浸潤T細胞のT細胞レセプターVβ鎖の特異性など様々な因子に関して細胞生物学的・分子病理学的解析を加え、自己免疫性唾液腺炎・涙腺炎の初期発生に関与する要因を明かにすることが出来た。各種サイトカイン、細胞接着分子の発現様式の差異を免疫組織学化的、分子生物学的に解析を加え、Tリンパ球のT細胞レセプターVβ鎖(Vβ1-Vβ19)について各ファミリーの特異的プライマーを作製しRT-PCR法にて同定を試みた。その結果、1L-1β,TNFα,IL-6,1L-10,IFN-γなど多くのサイトカイン産生異常、およびICAM-1,LFA-1,CD44,Mel-14の接着分子の異常発現が局所の病態形成に関与していることが明かとなった。さらに、MRL/1prマウス自己免疫性唾液腺炎から分離した浸潤リンパ球を調整し、SCIDマウス腹腔内へ移入することにより自己免疫病変のトランスファーが成立する実験システムを初めて確立し、抗CD4・抗TCR・抗ICAM-1/LFA-1抗体投与による発症阻止効果を明らかにすることができた。
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