研究概要 |
1.口腔小唾液腺由来腺様扁平上皮癌細胞(TYS)(Am.J.Pathol.124,496,1988)が、細胞分化誘導剤を検索するための有用な細胞であるか否かを検討した。すなわち,TYS細胞を5-fluorouracil(5-FUra)で処理すると唾液型アミラーゼを保有する腺房細胞が出現し、細胞内Ca^<2+>濃度の上昇に伴ってアポトーシスの生じることを明らかにした。また、TYS細胞をヌードマウスに移植して形成された腫瘍に、5-FUraを投与すると著明な増殖抑制が生じ、残存腫瘍は主に腺癌と診断できる組織像を呈した。この腫瘍には3′-OH nick-end labellingで検出できるDNAの断片化、Le^Y抗原の広範な発現を認め、5-FUra処理腫瘍では癌細胞の分化とアポートシスの生じていることが示唆された。2.TYSヌードマウス腫瘍にvesnarinoneを投与すると、腫瘍増殖は有意に抑制された。vesnarinoneで処理したTYS腫瘍では、ケラチノサイトおよび腺房細胞への細胞分化が生じ、その腫瘍分化に関連してLe^Y抗原の発現と3′-H nick-end labellingにより検出されるDNAの断片化が認められた。3.HSG細胞を5-azacytidineで分化誘導して調製した、腺房細胞の表現形質を保有するHSG-AZA3細胞は、22-oxa-1α,25-dihydroxyvitamin D_3と反応して骨芽細胞に分化誘導され、細胞増殖は著明に抑制されることを明らかにした。また、HSG-AZA3ヌードマウス腫瘍を22-oxa-1α,25-dihydroxyvitamin D_3で処理すると、腫瘍増殖は有意に抑制された。また、処理腫瘍内に骨が形成され、その骨組織内およびその周辺に破骨細胞の特異的細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ活性が生じながら治癒する可能性が示唆された。以上述べた研究結果より、TYSならびにHSG-AZA3細胞は、分化誘導剤の検索系として非常に有用であると考えられる。
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