研究概要 |
傾斜機能材料の概念を歯科へ応用し実用化するために作製方法の確立、材料の選択、強度特性試験、ミクロ分析による状態分析・濃度勾配の測定の基礎研究の後、歯科用インプラント(人工歯根)としての臨床応用を行う上でまず問題になる生体為害性、骨親和性評価のために動物実験を行った。また傾斜機能人工歯根や天然歯の各種環境下での挙動を観察するために原子間力顕微鏡観察を適用し歯質のエッチング過程の基礎的知見を得た。 1.アパタイト(HAP)材料の選択- HAPにはカラム吸着用の試薬(和光純薬)と1150℃焼成後粉砕して得られた粉末(住友セメント)の2種類を用い比較した。試薬を用いた際は加圧成形時の収縮が大きいこと、焼結作製後、遅発崩壊が起きるものがあり、難点であったが、大気中、焼結粉砕した定比組成のものを採用することにより解決できた。 2.ミクロ分析- レーザー顕微鏡、SEM、原子間力顕微鏡による観察とEPMA元素分析、顕微FT-IRによる官能基状態分析、微小領域X線回折による結晶構造同定を行った。 3.ミニチュア傾斜機能材料の作製- ラットに埋入できる大きさは限られており、人間用インプラント試験片(6.1φx15mm)は大きすぎるので微小試験片(2φx10mm)を新たに作製した。シリコーンゴム型や肉厚0.75mmのナルゲンパイプではCIP後、減圧時に生ずる弾性回復のため成型体が小片に分割破壊することが避けられなかった。肉厚0.3mmの薄肉ポリマーパイプを用いることにより一体の成型体として取り出すことが可能になった。 4.動物実験- 4週間、ラット大腿骨の骨髄腔内に埋入した試験片周囲の組織にはTi100%材,Ti/20HAP,Ti/30HAP傾斜材のいずれも炎症反応は認められず、生体親和性を有すると考えられた。Ti100%材では表面に線維性結合組織を介して新生骨が形成されているのに対し、Ti/20HAP,Ti/30HAPの傾斜材では新生骨が直接材料表面に接している領域が多く、Ti100%材よりも骨親和性にすぐれていると認められた。また新生骨が直接材料表面と接する領域の比率はTi/20HAPよりもTi/30HAP材のほうが大きかった。 5.原子間力顕微鏡(AFM)による歯質・アパタイトの酸処理液中観察- 溶液中観察が可能なAFMの特徴を応用し、接着性改善のために歯科臨床で行われる歯質のエッチングプロセスを酸処理溶液中で連続的に観察した。ヒトエナメル質、象牙質の同一試料・視野について大気中、水中、処理液(10%ポリアクリル酸、10%クエン酸、2%リン酸)の順に観察した。酸処理液中浸漬後、1分以内に研磨時発生した表層スミア層が除去され、エナメル小柱、象牙質が現れた。歯質の主成分であるアパタイトは引き続き反応溶解し、脱灰が進行した。脱灰作用は強い順からリン酸>クエン酸>ポリアクリル酸であった。
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