人工制限酵素の化学的創製として、まずレオマイシンの巧妙かつ効率的な塩基配列特異的なDNA切断反応の分子機構にもとづいて、新しいDNA切断分子を設計・開発した。すなわち、DNA攻撃部位(酸素活性化部位)とDNA認識部位とを合わせもった分子を設計するに際し、特定の塩基配列を認識・結合するインターカレーターやグルーブ・バインダーを選び、ATやGC部位が豊富な塩基領域を特異的に認識・切断する分子を化学合成した。また、その機能を解析するため、^<32>P標識DNA断片を用いてマギザム・ギルバ-ト法によって切断塩基部位を検討し、人工制限酵素としての機能を定量的に評価した。さらに、核酸結合蛋白質Sp1のヌクレアーゼへの化学変換が遺伝子工学手法を導入することによって達成され、10塩基から成るGCボックスの認識とその近傍のシトシン塩基でのきわめて特異的な切断が示された。すなわち、転写因子の1つでDNA結合ドメインに3個のCys_2His_2型亜鉛フィンガーを有するSp1をDNA塩基配列の認識部位として活用した。Sp1における3個の亜鉛フィンガーはGCボックスと呼ばれる5′-GGGGCGGGGG-3′の10塩基配列を認識することができる。従って、亜鉛フィンガーの数を増加させれば、認識塩基の数もふえることになり、このモチーフを用いれば、長い塩基配列の認識に大きな多様性をもたらす一般的概念を与えることが期待される。このような亜鉛フィンガーの幅広いDNA塩基認識能を基礎としたヒト・ゲノム解析用の人工制限酵素の開発を展開した。さらに、より一般的な認識法である三本鎖形成や実際のヒト・ゲノムへの応用に関して基礎的な検討を行ない、興味ある知見を得た。
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