研究概要 |
本研究では,人間の思考は図や文章,式などを書くことによって育まれるとの認識に立ち,手書きを基本とする人間と計算機の対話方式を確立することを目的としている.我々の研究の究極の目標は,手書きによる計算機との対話と,計算機の利便性(認識,処理,計算,グラフ化,清書など)との融合であり,そのことで人間の創造活動を増幅することである.本年度は研究の初年度にあたり,次の2つの研究の柱でそれぞれ成果を得た. 手書きヒューマンインタフェースの研究:発想段階で筆記しているユーザにとって,筆記過程で発生する誤認識が人間の思考を中断させることから,インタフェースの設計理念として認識処理の表示は必要になるまで遅らせるlazy recognitionを1990年より提案している.この方針に従った,いくつかのアプリケーションと要素技術の研究を行った.さらに,文房具メタファ(液晶表示面に表示されペンで操作できる仮想の文房具)による作図システム,手書き数式入力システムなどの試作とその評価を行った. 手書きパタン処理及び認識の研究:実時間続け字認識アルゴリズムの開発(先日学会でデモした結果,不特定の筆記者でも,80から98%の認識率を達成).手書きの図と文字の分離(A4サイズの紙面の文字と図形を,約90%の成功率で,0.1秒以内に分離).この他に,手書き数式入力のための,文字,記号のセグメンテーションと数式構造の認識アルゴリズムや,ペンの囲みによる対象の包含判定の高速アルゴリズムを開発した. この1年間に,ヒューマンインタフェースの2大国際会議,及び文書認識と理解の国際会議での論文発表を含め論文を10件発表し,さらに4件投稿中である.手書きの本質的な利点を発想支援と捉えた本研究は,内外を問わず先駆的との評価を受けた.特に,情報処理学会からは奨励賞,山内記念会から山内奨励賞を授賞した.
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