シクロヘキサン脱水素芳香族化触媒反応は、沸騰還流条件下、生成水素が系外に排出されるため定常的に進行し、しかもその速度は、溶液量/触媒量比の小さい液膜状態において、その比が大きな懸濁状態より遥かに速やかであることを初めて見出した。液膜状態では、炭素担持金属触媒の活性サイト温度は沸点より高く、外部加熱温度との間にある。実際、白金触媒で得た反応速度定数は、逆に極めて小さくなることがわかった。律速段階もまた、シクロヘキサンC-H結合の開裂から、表面水素種の分子形成・脱離へと移行することが、重水素置換体を用いた反応機構解析から明らかとなった。 濡れ壁型反応器での温度測定より推論された液膜状態のあり方は、HD交換の実験結果をよく説明した。液膜状態にある触媒が示す高い定常活性は、明らかに、活性サイト温度が沸点より高いことによる。ともにベクトル的不可逆過程である熱移動と物質移動は干渉し合うことがあるので、液膜状態にある触媒の表面では、ベンゼンと水素の形成脱離が促進され、空いた活性サイト数を増やし、脱水素反応速度を向上させる。このときエネルギー散逸は抑えられ、熱再生型燃料電池の効率は改善されることになる。 ルテニウム-白金複合触媒はシクロヘキサン脱水素芳香族化活性に優れていることがわかったので、それを燃料電池用ベンゼン水素化電極の触媒に適用した。すでに白金電極触媒で確かめられているように、開閉路電位は理論起電力にほぼ等しいことが、ガス拡散電極を用い明らかとなった。50mVで求めた電流密度は金属重量当り244mA/mgと白金電極の100mA/mgを2倍以上上まわり、電極触媒開発の指針を得ることができた。脱水素過程も水素化過程も、ともに炭素原子のSP^2【double half arrows】SP^3混成変化を律速的としていたことは、重要な手掛りを与えるものである。
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