本研究の目的は、われわれが過去十数年にわたって開発してきた二面角を独立変数とする生体高分子系の立体構造とそのダイナミックスをシミュレートする計算体形を、より拡張すると共に、実用化することである。これに関して、この2年間に次の成果を挙げることができた。(1)ソフトウエア体形を、アルゴリズムが本来持っている論理構造に即した形に書き直すことによって、一般化・柔軟化を果たすことができた。これを記した論文が、Computer Physics Communicationに印刷中である。(2)二面角系のこの計算体形は、蛋白質への応用で大きな成功を治めたが、核酸は柔らかい5員環構造を持つリボ-ズあるいはデオキシリボースを含むために、この方法の適用は、あまり大きな成果を挙げて来なかった。この困難を克服するためにはリボース環の擬回転を解析的に取り扱う方法を開発しなければならない。われわれはこの問題に根本的な解決を与えた。その成果は、J.Phys.Chem.に発表済みである。(3)上記の方法を取り入れた核酸を対象とする二面角系の計算体形を開発した。具体的な応用としては、NMRから得られる距離情報からリボース環の柔らかさを正確に扱いつつ核酸分子の立体構造を計算的に求めるアアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムはデカルト座標を独立変数として計算するアルゴリズムに比べて計算が十分に早いのみならず、得られた構造の歪みが少ないことがわかった。
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