研究概要 |
本研究では、哺乳類胎仔を体外で生存させる新しい方法として研究代表者が独自に開発した経胎盤灌流法を改良、発展させるとともに、これを哺乳類胎仔発生神経科学的研究に応用した。方法上の改善点は第一に、マウス胎仔に対する経胎盤灌流法を確立し、胎仔をin vitroで30時間生存させることを可能にした点である(Suzue,1994)。マウスで経胎盤灌流が可能になった事の大きな利点は、マウスでは強力な遺伝子標的法等が使用できること、またラットに比べ灌流液の必要量が少なく、貴重な成長因子、血清等を使って胎仔を長時間良好な状態で維持することが可能になった点である。第二の改善点は、新設計の無菌的灌流システムを作製、使用することにより実験系全体を無菌にすることができた事である。このことによりコンタミネーションを生じなすい富栄養の培養液を使用して胎仔を長時間維持することが可能になった。以上の改善を加えた経胎盤灌流法を用いて、胎仔の神経系の発達過程について検討した結果、マウス胎仔において神経系の活動により生ずる自発運動が、従来考えられてきたよりも2-3日早い胎齢11-12日から出現することが新たに明らかになった。この新知見は、神経系の発生の非常に早い時期から神経回路網形成に神経の活動が関与しているという新しい可能性を示唆している。また、経胎盤灌流によりin vitroで生存させたマウスに蛍光色素を適用し、種々の神経細胞を生きたまま選択的に染色することが可能であり、また神経細胞を生きたまま単離、培養することが可能であることも明らかになった。以上のような、経胎盤灌流法の進歩により、in vitroの胎仔の状態を(特に栄養面で)大幅に改善することができたので、この方法が、哺乳類胎仔に自由に実験操作、観察の行えるユニークな系として今後益々発展し、広く応用されて行くことが期待される。
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