本研究の目的は、高屈折率ガラスなどの使用によって大きな開口数の対物レンズを作り、光学顕微鏡の分解能をこれまでのものより上げて、光学的スライシングを非共焦点方式によって実現することを試験するものである。開口数の大きいレンズの製作については、オリンパス光学工業(光学機器設計部・阿部氏)の全面的協力を得て開口数1.65のものを設計し、実際にガラスの研磨とレンズの組立に成功した。数値上の規格は以下のようになった。名称:アポ HR(オリンパス)、開口数:NA=1.65、倍率:100倍、適応波長域:700〜350nm、最適中心波長:450nm、油浸乾燥の別:油浸レンズ、油浸用オイル:カ-ギル社 高屈折率オイル(n=1.78)、カバーガラス:光学研磨済み高屈折率タイプ(特製品)。これまでの開口数の最高値はNA=1.4であったのでこれを上回るレンズができた。これによる観察テストを、ビデオ顕微鏡方式を用いて、線維細胞、分泌細胞、血液細胞、腸管上皮細胞などにておこなった。画像撮影にはCCDカメラを用い、映像信号の増幅には高速画像処理装置を用いた。赤血球では膜下の細胞骨格の不均等配列による模様が見えた。血小板では細胞内顆粒と刺突起が、小腸上皮ではマイクロビライが、これまでのどのレンズによるよりも鮮明に捉えられた。実効的分解能は0.1μmに達し、本試作品は十分商品化可能と判断された。問題点としては、カバーガラスが標準品でないこと、油浸用オイルが数分のうちに着色し光透過性がやや低下すること、などがある。試作レンズの性能チェック用にもう一つ同じ規格のレンズを作ったので、これをコンデンサーレンズとしてさらに性能を改良中である。すべてのシステムが完成した段階で、ニューロンのシナプスの開口放出をリアルタイム観察する予定である。
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