研究概要 |
生体内で起こっているタンパク質の架橋接着反応を応用して,バイオテクノロジー分野で必要とされているタンパク質の糊付け技術を開発するために,私たちが新しく見つけた接着分子とその同族分子群の性質と遺伝子構造等を解明し,基礎固めを行うとともに,それら有用分子の大量生産系を構築するという応用研究を行ってきた。本年度はこれらの研究を発展させるとともに,接着分子を共有結合でくつける反応を触媒する酵素トランスグルタミナーゼに関する研究も行った。すでにウシの血管内皮細胞からトランスグルタミナーゼをクローニングすることに成功していたが,あらたにヒトのクローンを得ることにも成功した。医療分野への応用を考えると必要なものである。また接着分子(セメントインまたはセメントイン様分子と命名)の定量法と存在部位の同定法の開発も必須であることから,モノクローナル抗体を用いてセメントインのラジオイムノアッセイ系を確立した。抗体染色による局在部位の同定法も完成に近づいている。ラジオイムノアッセイの応用で基礎的に興味深い結果が得られた。すなわち血液中にも接着分子が1〜5μM程度存在することが明らかになった。この接着分子がどの組織のどの細胞に由来するのかを決定するためにノーザン分析とイン・スツ・ハイブリダイゼーションを行っている最中であるが,気管や小腸の上皮細胞にセメントイン及びセメントイン様分子のmRNAが多量に発現しているという予備的な結果を得ている。接着効率は接着分子中の糊代部分の長さに依存する面がある。この観点から,種々の動物の接着分子の長さをクローニングによって調べたところ,動物種によって,糊代部分の長さが異なることが判明した。現在,大腸菌の系を用いて遺伝子工学的にこれら長さの異なる接着分子を量産するための発現系を構築中である。
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