研究概要 |
1.前回の動物実験で作成した腹膜炎モデルにおいては,以下の結果が得られた. (1)ポリプロピレンメッシュの網目を通してドレナージをはかった場合,腹壁単純閉鎖やチューブドレナージ群と比べて成績は良好であり,開放療法と同じく,腹腔の汚染物質を対外に排除し,腹膜炎による敗血症や多臓器不全の防止に有効である. (2)ポリプロピレンメッシュの表面にコラーゲンを固定した群では固定した群に比べて,腹膜炎消退後の腹壁創では炎症性反応や皮膚上皮の潜り込みは少ない傾向がみられ,中にはメッシュの表面が完全に皮膚で被われた例もあった. そこでコラーゲン固定のポリプロピレンメッシュを人工腹壁として仕用すれば,腹膜炎の際は腹腔開放療法に準じた治療法となり,腹膜炎消退後はそのまま腹壁として器質化し,再手術の必要がない理想的な方法となることが期待された. 2.ところが腹壁治癒の差を更に厳密に比較するために,家兎の背部皮膚に左右対照に円形の穴を開け,一方はコラーゲン固定メッシュを,反対側は無処置のメッシュを埋め,開放創での治癒状態を経時的に観察した.その結果は当初の予想に反して以下の結果が得られた. (1)コラーゲン固定の有無に拘らず,大部分のメッシュは開放創から押し出され,人工腹壁としての機能を果たさなかった. (2)コラーゲンの代りにハイドロオキシアパタイトでメッシュの表面を被っても,異物反応は抑制できず,むしろ増強した. 3.以上より,ドレナージと腹壁という二つの機能を兼有する理想的な人工材料は開発できなかった.ただ2で述べた方法は,人工材料の生体適合性や異物反応を厳密に評価するための方法となり,よりよい材料の開発に利用できると考えられた.
|