1.現象学の源流を溯り、ブレンターノ哲学の射程を主に志向性と意識という現象学の基本概念に関して解明するとともに、そのブレンターノの観点との対比を通してフッサール現象学の独創性がどこにあるかを明らかにした。ブレンターノは志向性、意識に関して、伝統的な観念の理論の困難を明確に見抜いていたが、心的現象と物的現象の二元論の枠組みに留まったため、困難を突破する新たな見方を開くことはできなかった。フッサールは、志向性に関しては「意味」、意識に関しては「生きる」という新たな観点を導入することによって現象学への道を切り開くことができた。 2.エーレンフェルスからフッサールを通してグラーツ学派及びベルリン学派へ至るゲシュタルト理論の基本的な論点を整理した。その作業通して明らかになったのは、ゲシュタルト概念には、感覚の次元を越えた「意味」に基本を見る見方(主にグラーツ学派)と感覚の次元に「体制化」の原理を見いだす見方(主にベルリン学派)との2つの方向が絡まりあっており、フッサールやメルロ=ポンティによる知覚論はこれら両方向を現象学的観点から統合しようとした試みと見ることができるという点である。 3.以上の成果を現代の「心の哲学」の議論と結び付けることによって、「現象学的観点からの『心の哲学』」を形成する道を探った。とくに現代の脳科学、認知科学で中心課題と見なされている「意識」を巡る問題を取り上げて、現代の心の哲学では見逃されている「生活世界の中の意識」並びに意識の「身体性」という現象学的観点の有効性を検討し、メルロ=ポンティの「盲人の杖」のモデルに基づいて、意識と身体に関して対象的存在と「生きられた」存在との「二重側面説」を提起した。
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