研究概要 |
本研究の目的は,ディグナーガの主著『集量論自注』Pramanasamuccayavrttiの第5章「アポーハ論」の詳細な注釈を付けた全訳を完成することにある。 (1)そのため,平成5年度には,桂,小川,稲見に,原田和宗・本田義央の両氏をくわえた同書の読書会を5回開催した。 (2)その際,従来十分に利用されているとは言い難い,現存する唯一のインド人仏教学者ジネーンドラブッディによる副注Tikaの重要性に着目し,その和訳にも着手した。 (3)その結果,当然予想されるところではあったが,副注にはディグナーガの最大の後継者であるダルマキールティの『量評釈自注』Pramanavarttikasvavrttiからの逐語的な引用が次々と発見された。これは,ディグナーガとダルマキールティのアポーハ論の相違を明らかにするのに重要な役割を果たすものである。 (4)読書会参加者のうち,小川,原田,本田は,ディグナーガのアポーハ論に大きな影響を与えたと考えられる文法学者バルトリハリの研究者であり,ディグナーガやジネーンドラブッティの文書中に見られるバルトリハリ的要素の抽出を試みつつある。 (5)平成6年度には,『集量論自注』第5章の後半部分をジネーンドラブッディの副注とともに和訳研究する予定である。
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