本研究によって以下の諸点が解明され、有益な成果が得られた。当初の計画どおり研究が進行したわけではないが、とりあえずこの方面の基礎的研究として一定の寄与をなしえたのではないかと思っている。 1.東独プロテスタント領邦教会と国家の関係史を分析した結果、両者の思想的、神学的攻防は、わけても「社会主義のなかの教会」という定義をめぐる解釈であった。 2.すさまじい密告社会としての旧東独の実態があきらかになった。プロテスタント領邦教会内部にも、多数のIM(秘密政治警察非公式協力員)が存在した。 3.「社会転換の助産婦」としての東独プロテスタント領邦教会の重要な役割の解明とは別に、1992年春以降、領邦教会指導部が、教会的、人道的案件のためとはいえ、積極的に国家保安機関(秘密政治警察)と実際的、政治的関係をもっていたことがあかるみに出た。 4.東独プロテスタント領邦教会は、《ドイツ統一を生み出した状況》に深く関わりをもつだけでなく、《ドイツ統一が生み出した状況》にも重大な影響を与えている。その一つが、統一ドイツにおけるドイツ・プロテスタンティズムの動向である。すなわち統一ドイツは、ふたたび強力なプロテスタント国家に回帰した。 5.ドイツ統一ならびに東独プロテスタント領邦教会と国家のアイデンティティをかけた対抗の歴史に刺激されて、西欧における「教会と国家」という重要な問題が、ポスト・モダニズムにおける両者の関係を模索することを含みながら、ヨーロッパ現代社会の先端にふたたび姿をあらわした。(旧ユ-ゴスラヴィアにおける民族的=宗教的=政治的紛争)
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