1.古代メソポタミアは契約社会であり、特に調印が重んじられていたため、調印された法的文書が多く出土している。平成5年度には特に調印に用いられる印章の研究に重点をおき、以下のような知見を得た。 (1)新アッシリア時代の印章のうち、特に重要な印章には銘文が付されているが、現在知られている銘文を分析した結果、新アッシリア時代の印章所有者とされているのは、神、祭司、王、「副王」、代官、宦官その他の男性であることが分かった。 (2)図像の種類としては、奉納印章、役職印章などがある。しかしこの時代の印章の多くには銘文がないため、銘文の分析だけでは不十分であり、印章に刻まれた図像の分析も必要となる。従来の図像研究は、何が刻まれているかを表面的に描写するだけであった。しかし印章図像を銘文と対応させることから、新たに「宦官の印章」というジャンルが存在することを裏付けた。そのような印章では宦官が礼拝者として表されている。このジャンルの存在は、宦官が当時のアッシリア帝国で重用され、高い地位に就くようになっていたという事実と呼応することを確認した。また宦官の礼拝の対象となっているのは多くの場合女神イシュタルであることも認められた。 (3)新アッシリア時代の印章図像の特徴のひとつに「生命の木」の図像があるが、その宗教的、政治的意義について考察を加えた。 2.これらの新しい知見については論文として、学会での口頭発表として頻繁に発表をおこなった。また6年度にさらに研究を深め、また引き続き研究発表を行うために、楔形文字文献資料、および関係図書を購入し、写真、スライドの作成を進めた。
|