研究概要 |
1.昨年度に引き続き、印章銘文の収集、分析を行った。特に新アッシリア時代の宦官の印章を巡って考察を加えた(「新アッシリア時代の宦官 印章をてがかりに 」古代オリエント博物館編『文明学原論』山川出版社)。 2.ある新アッシリア時代の印章銘文を正しく読むことによって、それが奉納印章であることを明らかにした。この銘文はアッシュル市の代官であったパーン・アッシュル・ラームルが、彼の主君であるアッシリア王アダド・ニラリ3世の長寿を願って女神グラに奉納した印章である。新アッシリア時代の奉納印章は数点しか知られていないため、貴重である。この印章に刻まれているあご髭のない礼拝者とアッシリア王の姿は、それぞれ奉納者パーン・アッシュル・ラームルとアダド・ニラリ3世(前9〜8世紀)を表していると考えられる。あご髭のない礼拝者像をもつ印章は宦官の印章であるという昨年度の研究成果に従って、この奉納者も宦官であったと結論する。さらに、奉納文のタイプを分析し、この奉納文は、自らの長寿ではなく、他者の長寿を願っての奉納文であることを指摘する。この研究成果は論文(“Votivsiegel des Pan-Assur-lamur,"Acta Sumerologica 16,1994)として発表した。 3.最近発表された新アッシリア時代の印章銘文の再解釈をするとともに、昨年度の新アッシリア時代の印章銘文の集大成(“Neuassyrische Siegellegenden,"Orient 29,1993)に対する補足としていくつかの銘文(これまで未発表のものを含めて)を集め、論文(“Weitere neuassyrische Siegellegenden,"Acta Sumerologica 17)とする。 4.従来不明とされてきた新バビロニア時代の宦官についても、新資料の解釈によって、その存在を証明した(“Beschrifete neubabylonische Siegel,"Bulletin of the Middle Eastern Culture Center in Japan 8)。
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