今年度は、花鳥画の図像学を考える上で、重要な時期である元代の、代表的職業花鳥画家、王淵に関する資料を集め、その代表作にみられる図像を中心にまとめ、上海博物館展記念国際シンポジュウムで発表し、発表論文を執筆しプロシーディングに投稿中である。これを通じて、元の職業画家の制作の実際について、文人画家との交渉や、作品にそれがどのように現れたか、また注文主との関係、どのような場面で作品が描かれたか明らかになった。特に花鳥画制作の際ある目的のためにそれにふさわしいモチーフが選ばれ画かれていたことが、文献資料からも確実に裏付けられたことは、収穫であった。さらに、具体的な作品について、そこに画かれたモチーフの意味を、元以前と元以降との作品との比較によって、連続的に解釈することが出来、これによって、文人と職業画家が、共通の基盤の上にモチーフを選び、少なくとも元代にはそれを共有していたことが、作品によって確認された。また、特に、このような作業・考察を通じ、中国絵画史上主流であった文人の山水画以外の、このような職業画家の花鳥画のなかにこそ、それぞれの時代の広範な人々が絵画に求めていた役割、絵画が社会の中で果たしていた役割について、見て取ることが出来るという問題意識を得た。そのような視点から、中国絵画史について再考する必要を痛感し、特に中国では芸術作品として扱われなかったため遺品がなく、今日日本にのみ多く残っている、宋元明の、草虫図、蓮池水禽図、藻魚図などの職業画家の花鳥画作品が担っていた役割を、図像学的な考察を中心に検証していくことを、今後の課題の柱として、現在次年度に向けて準備中である。
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