主に宋・元代の花鳥画制作を、主題のもつ吉祥的意味から考察した。先年度から引き続き元代の花鳥画家王淵の制作についてまとめるとともに、新たに、花鳥画のうち、特に蓮池水禽図・藻魚図・草虫図のモチーフに込められた図像学的な意味について考察した。 この三つの画題は、宋代以降職業画象によって、多く描かれ、また文人画家にも取り入れられた。このような広範な制作の背景に、主題のもつ吉祥的な意味とそれによって引き起こされた需要が考えられる。このような観点から、それらの絵画の受容や役割について、主に画題の成立期であった宋代の状況を考察した。古代からの伝統については文献と考古学的出土資料を参照し、唐宋の状況については民間窯の陶磁器などの工芸品のモチーフを援用し、宋代の随筆や画史の記述と照らしあわせつつ、現存作品に基づいて考察した。その結果、蓮や魚など個々のモチーフのもつ重層的な意味が明らかになるとともに、そのようなモチーフの吉祥的意味故の作品の受容が、宋代にはすでに行われていたことや、婚礼など具体的な祝賀の場でのこれらの作品の受容についても、ある程度明らかにすることが出来た。また、そのような伝統が、明清の文人花鳥画にも反映し、モチーフの吉祥性に対する意識とそれ故のモチーフの選択が文人の画題や、さらには近代の日本画象の作画にも反映していることなども、確認できた。 今後、この成果をもとに、更に絵画の受容という観点から美術作品を考え、花鳥画のみならず、人物画や山水画も含め、また文人と職業画家の関係なども視野に入れつつ、中国絵画全体を捉え直す作業を進める予定である。
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