研究概要 |
ビタミンEの慢性欠乏が学習障害をもたらす可能性を,我々はすでに報告した。そこでまず,このような行動障害の基盤となっている中枢神経系の変化について検討した。とくに学習,記憶との関連が示唆される脳内アセチルコリン(ACh)神経系に焦点をあてて,生化学的な分析を行った。ラットを用いて、生後4週齢よりビタミンE欠乏食,添加食,または対照食で24か月齢まで飼育を続けたところ,3群の血中及び脳内ビタミンE濃度には,有意な差が認められた。これら3群のラットの脳内ACh神経系の活動の指標として,AChの合成酵素(コリンアセチルトランスフェラーゼ),およびAChの分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)の活性を測定した。その結果,いずれの活性も,測定された脳部位すべてで,長期にわたるビタミンE欠乏あるいは添加による変化は認められなかった。従ってビタミンE慢性欠乏による学習障害の原因を,脳内ACh系酵素活性の低下に帰することは難しいと考えられた。 次に,末梢神経系における変化の組織学的検索,および痛覚刺激に対する感受性の行動的測定を行った。生後4週齢よりビタミンE欠乏食,添加食,または対照食で9か月齢まで飼育を続け,これらのラットの,足への電撃に対する反応を,電撃強度を変化させながら観察した。その結果,ビタミンE欠乏食群では,電撃に対する逃走反応が出現する閾値が有意に増大していた。ビタミンE添加食群では,対照食群と差は見られなかった。その後,これら動物の脊髄神経節の組織学的観察を行ったところ,ビタミンE欠乏食群では,神経細胞の数には減少はなかったが,神経細胞を取り囲む衛星細胞の配置が乱れている傾向が見られた。従って,我々が報告したビタミンE慢性欠乏ラットの受動的回避学習障害は,少なくとも部分的には,末梢神経系の機能異常による電撃感受性の低下にもとづくのではないかと考えられる。
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