これまでの、視覚初期過程の研究では、視覚主経路に沿った各レベルでの処理演算は、そのレベルでの受容野特性として記述されることが多かった。しかしながら、個々の受容野特性は独立的なものではなく、レベル間でいわば累積的な影響を及ぼしあっており単純に個々の受容野特性に帰因することは難しい。視覚情報の統合過程においては、なおさらである。そこで、心理物理学的方法による他の指標を用いて、各レベルでの情報処理・変換の特性の検討を踏まえ、統合過程での情報の変換・処理の特性を明確にすることが望まれる。 本研究では、その指標として、信号検出理論で用いられる伝達効率を用いることを考えた。特に、〔両眼立体視〕及び〔運動による3次元構造復元〕における伝達効率を導出し、立体情報・運動情報の統合過程の仕組みを明らかにすることを目的とした。 しかしながら、伝達効率を求めるためには、まず基本的なデータとして、両眼立体視成立過程における視覚情報への感度を測定することが求められる。特に注目されるのが、基本的な空間構造としての、3次元対称構造の検出感度である。さらに、空間構造検出の基礎となる、視覚系の処理の線形性(周波数分析)も検討しなくてはならない。 研究成果としては、「3次元対称構造の検出」、「2次元・3次元対称構造とノイズ処理」、「Orientation of illusory oblique lines on Hermann grids」としてまとめられた。一方、当初の予定であった、伝達効率の比較検討は、平成5・6年度では、3次元対称構造の検出およびバイオロジカルモーションの知覚過程における統計的効率が算出されたにとどまった。しかしながら、基礎的なデータは十分蓄積されたので、視覚情報処理における伝達効率の比較検討に関して、これから発展的な研究が期待できよう。
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