寒冷、騒音、餌や水の欠乏などは生体にストレスを引き起こし、性や体重発達に大きな影響を与えるだけでなく、精神的機能にもまた影響することがよく知られている。これらの要因のなかでも、餌や水の欠乏によってもたらされる性や身体発達の遅滞は、研究者によりある場合にはストレスによるものとされ、また別の研究者によれば栄養学的要因に起因するものだとされた。本研究はこのような性と身体発達の遅滞が、ストレスによるものか、あるいは栄養学的要因によるものかを動物実験により、実験デザインを工夫することにより検討することを目的とした。さらに問題を発展させ、ストレスにより萎縮が見られた精巣と冬眠発生の関係を、同じ実験パラダイムを使って調べた。 発達成長期にある雄のシリアハムスターを用いて、12週間にわたり水を剥奪した。剥奪の割合(日数)を等しくしたが、1日あるいは3日おきに規則的に剥奪する群と、実験期間中ランダムに剥奪する群とを設けた。両群は水を飲める割合は等しいチャンスが与えられているが、後者の群ではいつそれが剥奪されるかを予測できないため、よりストレスフルであると仮定された。同じ実験パラダイムで餌の剥奪をも行った。 結果は餌あるいは水の剥奪それ自体より、それらがいつ剥奪されるかを予測できない場合、特に著しく、体重と精巣が抑制されることが明らかにされた。 一方、餌の不足する寒冷期の冬をこのシリアハムスターは冬眠し、極力エネルギー消費の節約をはかることにより、やり過ごすことが知られている。この冬眠に入るためには、精巣が萎縮していることが必要であることも知られている。そのために、精巣を抑制することが明らかにされた上記の実験パラダイムはまた、冬眠を促進することが考えられよう。シリアハムスターを用いた実験の結果、餌や水がいつ剥奪されるかを予測できない場合は、同じ割合(日数)で剥奪しても、規則的に剥奪する事態と比べ、動物をより早く冬眠にはいらせ、より長く冬眠させることが明らかにされた。
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